地域に学び、地域に返す―小さな高校の大きなチャレンジ
MAP

今年度の課題は“特産でECO(いこう)”

山の芋のグリーンカーテン

 平成22(2010)年度が始まったばかりの4月下旬、生物工学室では、特産バイテク類型3年生の課題研究の授業が行われていた。2年生のときから、当時の3年生とともに夏休みも冬休みも返上して、プロジェクト研究に取り組んできた新3年生3人。

 今年度の課題研究のテーマは、山の芋でグリーンカーテンをつくろうというもの。山の芋を上に伸ばして育てる研究からつかんだ手ごたえを、地域に広く広めようという試みだ。


 地元の小学校2校と市の公共施設で山の芋を栽培し、そのツルをグリーンカーテンとして活用することが本格化し、この日の放課後、実施校のひとつ西紀小学校に説明に行くことになっていた。

 生徒のひとり、田阪瑞樹くんは「今年は“特産でECO(いこう)”でいきます。山の芋のツルを利用したグリーンカーテンでCO2削減と、できた芋で食育の活動を行います」と、今年の取り組みについて説明。


 3年生類型リーダーの井関智晴くん、東雲校農業クラブ(→第1章「地域に密着した農業系高校として」)会長でもある小川拓馬くんとともに、定期的に小学校へ赴き、自分たちが先生となって小学生に“エコと食育”の指導を行うことになっている。

 「ウイルスフリー苗の生育状況をきちんと測定するためにもいい機会になります。朝顔のグリーンカーテンは花を楽しむだけだが、山の芋の場合、秋になったら食べれられるという利点もあります」と上野先生。3人は真剣な表情でうなずいている。

写真
特産バイテク類型3年生の授業風景。生徒は左から井関智晴くん、小川拓馬くん、田阪瑞樹くん

高校生に期待

 この日の授業には、特産バイテク類型の特別非常勤講師を務めている、ひょうごの達人2人も加わった。

 黒大豆の生産で農林水産大臣賞の受賞歴もある細見俊昭さん(→第2章「地域に学び、地域に返す」)と、篠山農業改良普及センター退職後、生産者として山の芋栽培に力を入れる平野正憲さんである。

 「学校や家庭の花壇で山の芋ができるようやったら、地元の消費量があがってきますなあ。人に教えるちゅうことは、自分が覚えることが大事やさかい、がんばってやってください」と、孫を見つめるような表情で語る細見さんは、東雲校の前身・篠山農業高校の出身である。

 「若い人や小学生は、山の芋が地元特産ということをわかってへんから、グリーンカーテンはおもしろいんちゃうかな。山の芋や黒豆は特産ということを、地域のもんが認識するのが大切やと思うんで、ほかす(捨てる)ところのないような仕組みを考えて、篠山からどんどん発信していかんといかんな」と平野さん。


 昨年、東雲校で育てた山の芋のウイルスフリー苗は平野さんのハウスでも栽培実験中である。

 6時限目終了のチャイムが鳴ると、特産バイテク類型を選択した新2年生7人も、生物工学室に集まってきた。彼らの学習はまだ始まったばかり。特別非常勤講師の細見さん平野さんとは、この日が初顔合わせだった。


 特産バイテク類型を選択し、昨年度までに卒業した生徒15人のうち、9人が地元に就職し、過疎化の進む地域の支えになっている。そのいっぽうで悩みもある。機械化が難しく、人手のかかる黒大豆や山の芋の栽培。「昔と違うて、今は農業が置いてけぼりや」と、細見さんが嘆息するように、高校でかなり高度な栽培技術を身につけて卒業しても、生産者として自立できる受け皿がないのだ。


 3年生の田阪くんは「もともと農業に興味があり、篠山の特産のことを知りたい」と、特産バイテク類型を選択。しかし家が農家ではないこともあり、「将来は学んだことを生かせる仕事につきたいのですが、ちょっと無理です」と残念そうだ。地元農業の将来のためにも、受け皿づくりは今後の課題である。

写真
細見俊昭さんは「黒大豆」の先生
写真
平野正憲さんは「山の芋」の先生

これからも地域のための農業系高校として

 さて授業の後、生徒たちは篠山市立西紀小学校へと向かった。篠山市西部の西紀地区は、昔から山の芋の生産が盛んな土地。晩秋に山の芋を収穫した後、ツルを畑でいっせいに燃やしたことに由来する「とろろ街道 炎のまつり」が毎年11月に行われている。


 1学年1クラスの西紀小学校は、山の芋とかかわりの深い地域にあるが、3年生には山の芋生産農家の子どもはいない。東雲校の生徒が講師となり、山の芋のグリーンカーテンをテーマに、小学3年生の総合的な学習を行いたいという意向である。

 山の芋を栽培して教室に涼風を取り込み、さらには生育した山の芋を調理して食べようという、“エコと食育”を組み合わせた計画に、西紀小学校の先生たちは積極的に協力することを約束。さっそく5月の連休明けから、火曜日の総合実習と、木曜の課題研究の授業を利用し、生徒たちが観察・収穫などの指導をすることが決まった。


 今年度の取り組みはこれだけではない。地元の酒造会社と連携し、出荷できない“くずイモ”を使った焼酎の開発が進んでいる。篠山は昔から、酒造り職人「丹波杜氏」を輩出してきた土地であることから、新たな特産品が開発できると、地元では期待されている。近々「霧芋焼酎」の試作品も、完成予定である。


 少子化にともない、全国各地で高校の統廃合が行われている昨今、篠山産業高校の分校として60余年の歴史を刻んできた東雲分校は、来年度から新たな農業系高校として独立することになった。

 その背景には、特産の黒大豆や山の芋などの研究により、地域の農業振興に貢献したと評価されていることが大きい。特色ある学校づくりをめざし、地域と連携しながら特産品の研究に取り組む特産バイテク類型は、その先頭を走っている。

(取材/文 八田尚子・フリーライター)

写真
3年生の児童とともに山の芋を定植。夏にはツルが伸び、グリーンカーテンに