地域に学び、地域に返す―小さな高校の大きなチャレンジ
MAP

農業技術の地産地消

ウイルスフリーの山の芋

 東雲校の特産バイテク類型の取り組みは、“地域に学びながら研究したことを、地域に返していく”という、農業技術の地産地消といえる。では生徒たちは、どのようにプロジェクト活動を進めたのだろうか。


 下のカコミは、類型設置の翌年の2005年より取り組みを開始した、〈山の芋のウイルスフリー化による優良種苗の開発〉のあらましである。この研究は、篠山農業改良普及センターとJA丹波ささやまから、「東雲校の生物工学の施設・設備を使って、山の芋のウイルスフリー化に取り組んでほしい」という依頼を受けたことをきっかけに、現在も先輩から後輩へと受け継がれている研究である。(→カコミ〈山の芋のウイルスフリー化による優良種苗の開発〉)


 今年度はさらに、新しい取り組みも始まっている。ムカゴをウイルスフリー化すると生育が際立って旺盛になることから、ムカゴ栽培方法の見直しに向けた実験が行われている。

 ウイルスフリー苗の特徴を生かすため、1.8mの支柱を立ててネットを張り、ツルを上に伸ばして栽培したところ、数々の利点があることがわかってきた。


 そのひとつは、ツルにからまった雑草を低姿勢で刈り取らねばいけないという、農家の苦労をかなり軽減できること。さらに、株間を現行の36cmから15cmに狭めることで、消費者の求める手ごろな大きさの山の芋を収穫でき、収益性の向上にもつながることである。

 このことから、環境学習につながる山の芋のもうひとつの「地産地消」の可能性も見えてきた。(→第4章「今年度の課題は“特産でエコ”」)

写真
培養室のようす。ウイルスフリーの山の芋苗生産のためにバイテク技術を駆使する
写真
茎頂培養して2週間後。まだ幼い
写真
培養4週間後。だいぶ育ってきた
写真
培養8週間後。この後、ツルの節ごとに切り分け、新しい培地に移す

プロジェクト研究
〈山の芋のウイルスフリー化による優良種苗の開発〉

 山の芋のツルの先端より、約0.2mmの茎頂分裂組織を取り出し、培養液に入れて2カ月間育成する。その後、ツルの節ごとに切り分け、新しい培地に移してさらに2カ月間育成。これを繰り返すことで、ウイルスにまったく侵されていない山の芋の大量生産が可能になった。

 問題は培養瓶内から畑にもどす“順化”の方法である。そこで山の芋のツルにできる「ムカゴ」に着目し、ウイルスフリーのムカゴを培養瓶内で生育することで、種芋に比べカビや腐敗のリスクが少ないムカゴを、畑に直接植えることが可能になった。

 しかし、ムカゴを植えても種芋にはならないため、ウイルスフリーのムカゴ約5,000粒を、校内の網ハウスに植え付け、ゴルフボール大の「小丸芋」をつくった。

 平成21(2009)年度には、この小丸芋を種芋として、大きな種芋をつくる栽培実験に取り組むとともに、ウイルスフリーの種芋を地域に無償で配布した。今後は、地域での実証実験を行っていく予定だ。

さまざまなコンテストに応募

 このプロジェクト活動に対して、兵庫県の地域戦略維持費での予算化が決定し、地元篠山では山の芋優良種苗開発に向けた「山の芋種芋生産協議会」が設立された。特産バイテク類型で始まった研究は、JA、行政、生産農家、各研究機関が連携し、地域全体で取り組むプロジェクトになったのである。

 いっぽうで担当の上野先生は、生徒を励まそうと、地元新聞社やテレビ局に積極的に情報を発信。それとともに、農業関係の論文やエッセイコンクール、生物分野のコンテストに応募するよう生徒を指導した。第1章「地域に密着した農業系高校として」であげたのは昨年度受賞の一部である。

 一昨年、日本一に輝いた賞のひとつに、農や食を学ぶ高校生がユニットを組み、創作料理を競い合うコンテスト「ごはんCUP2008」がある。特産バイテク類型の生徒は、三重県の相可高校の生徒とユニットを組んで、新しい郷土料理「シャキ・ホク・トロ霧芋ご飯定食」を提案した。

 優勝のニュースは地元で大きな話題となり、地元のレストランでは優勝メニューのお披露目会が開かれた。さらに東雲校のホームページや新聞でレシピが公開されると、評判が評判を呼び、篠山市内の飲食店や小売店での山の芋の消費が拡大。篠山市飲食業組合から感謝状が贈られた。また、市内の小中学校の地産地消給食メニューとして、提案している。


 「ごはんCUP」がリニューアルして、昨年スタートした「全国高校生対抗ごはん DE 笑顔プロジェクト選手権」には、生産者の悩みである“くずイモ”を有効利用しようと「福の郷 霧芋カレー」を開発。全国大会進出はかなわなかったが、市内の小中学校の給食メニューにしようという動きが起きている。

 「ごはんCUP2008で優勝したとき、審査委員長の道場六三郎さんから『ふるさとの自然が特産物をはぐくみ、そこから生まれた歴史や文化が君たちを育てた。地域の先人たちに感謝しなさい』と講評の言葉をいただきました。学校のプロジェクトの成果を地域に還元し、地域の活性化につなげていくことで、生徒たちは生き生きしてきて、次のステップに進んでいけます」と、上野先生。


 先生は生徒たちに自信をもたせようと、特産バイテク類型の授業の場・生物工学室に、研究成果や掲載された新聞記事を拡大してパネルに展示。すでに壁いっぱいに埋まりつつある。

写真
〈ごはんCUP2008〉の優勝メニュー「シャキ・ホク・トロ霧芋ご飯定食」
写真
優勝メニューの材料、霧芋(山の芋)と地元産米

◆参考サイト:
《全国高校生対抗 ごはん DE 笑顔プロジェクト選手権》
http://www.egao-p.com/

レポートの感想・ご意見などをこちらよりお寄せください。