地域に学び、地域に返す―小さな高校の大きなチャレンジ
MAP

篠山の農業活性化をめざして

地元の特産品にこだわる

 兵庫県東部の篠山市は、丹波の山々に囲まれた盆地に位置する人口4万6千人の落ち着いた町である。戦国時代は京都、大阪と、丹後・但馬を結ぶ交通の要所であったと伝えられる。現在、篠山市のおもな産業は農業であり、なかでも「丹波黒」のブランドで知られる大粒の黒大豆と、霧の多い気候と粘土質の土壌によって生み出される、粘り気の強い山の芋「霧芋」は、篠山を代表する特産品として全国に知られている。


 全国の農業系高校で学ぶ生徒に共通していえることだが、東雲校でも農家出身の生徒は少ない。ましてや、家業を継ぐために特産バイテク類型を選択する生徒は、皆無に近いという現状がある。そこで地域に根ざした農業系高校として、篠山の農業活性化をめざそうと、特産バイテク類型では次の2つの学習目標が掲げられた。

(1)丹波篠山の特産品である黒大豆と山の芋栽培に関する知識・技術を身に付けた特産生産者を育成する。

(2)植物バイオテクノロジーの技術を習得し、その技術を用いた特産品の品種改良やウイルスフリー化を行い、地域に貢献する人材を育成する。

 さらに高等学校の学習指導要領では、必要に応じて学校設定科目を設けられることから、平成18(2006)年度から「特産物工学」を設置。丹波篠山の特産品によりこだわった授業を行うことになった。

まずは地元の声を聞くこと

 「“農業は科学”という考えに基づき、どれだけ科学的裏付けのある実践をやれるかだと思うのです」と語るのは、2004年の立ち上げ当初から、特産バイテク類型の指導を担当する上野弘和先生だ。

 生徒たちが、黒大豆や山の芋の生産農家へ実習に行ったり、JAなどの集まりに参加するなかで見えてきたことは、「地元のことは、地元で実際に取り組んでいる人に聞こう」ということ。農家の人々と交流しながら地域の声を聞くことで、類型学習で何をすべきか自ずと明らかになってきた。

 江戸時代から特産品として知られる黒豆と山の芋は、篠山という土地に適し、とくに20年ほど前からは減反の転作作物として栽培面積が増大した。しかし地元の声を聞いてみると…。以下は、生徒の研究レポートの抜粋である。

 「黒大豆栽培を学び、栽培講習会等に参加するようになり、地域の現状を知ってショックを受けました。それは、発芽直後の生育不良や立ち枯れ性病害の増加、変異種の発現により、生産コスト増加や収量の減少、品質低下が深刻な問題となっていることです。このままでは丹波篠山の大きな看板である黒大豆が栽培されなくなっていくのでは……という危機感が、私の中に芽生えました」。

 「あるとき私は、丹波篠山の山の芋が生産できなくなるかもしれないことを知った。種芋腐敗により栽培面積が低下していることや、出荷先での腐敗によるブランドイメージ低下が問題となり、農家の高齢化とも重なって、生産離れが起きていることがその原因だ」。

写真
左:上野弘和先生 右:「ひょうごの達人」細見俊昭さん

先生役は、地元の生産者

 平成19(2007)年度より兵庫県では、農業、商業など職業に関する学科をもつ県立全日制高校を対象に、「ひょうごの達人」招聘事業を実施している。各分野のプロを招いて生徒の専門性やスキルアップを支援しようという取り組みである。

 また、(財)日本特産農作物協会が実施する「地域特産物マイスター」制度は、地域活性化のためのリーダーとなる人材をマイスターとして認定する仕組みで、2009年までに全国で166人が認定されている。


 特産バイテク類型ではこれらの制度を積極的に活用し、特産物の生産者を特別非常勤講師として迎え、2年生の「特産物工学」の授業では黒大豆を中心に、3年生の「課題研究」の授業では山の芋を中心に、栽培技術の伝承を学んでいる。

 一昨年(2008年)のある日のこと、ひょうごの達人として授業でお世話になり、地域特産物マイスターでもある黒大豆生産者の細見俊昭さんから、「ほんに、かなんにぃ」という声があがった。

 黒大豆の種を播いても、発芽率が7割にとどまっていることに加えて、発芽時の低温によって苗の立ち上がりが悪くなったのだ。そこで「効率的な育苗技術の開発」に取り組むこととなった(→表1参照)

 山の芋についても、農家の現場実習や特別非常勤講師の話を聞くと、2004年に100haあった栽培面積は2009年には64haとなり、5年で3割強が減少。その一因として、産地内のほぼすべての山の芋がウイルス病に侵されていることがわかった(→表1参照)。さらに黒大豆も山の芋も、栽培に手間がかかり、生産農家が高齢化しているという深刻な問題も見えてきた。

写真
黒大豆の栽培法について地元の生産者から学ぶ
写真
産地別の黒大豆。左は丹波篠山産、右は北海道産
表1〈特産バイテク類型の研究〉
品目 研究テーマ 開始年度
(すべて継続中)
研究のきっかけ 研究経過
(方法と結果)
黒大豆 変異種調査と遺伝資源確保への取り組み 2007年〜 農家からの依頼
(収穫した黒大豆に黄大豆が混ざるのはなぜか?)
・種皮の色を分離(黄、緑、茶、黒)。なぜ混ざるかを調べる
・黒大豆と黄大豆の交雑で変異種ができることを突き止める
効率的な育苗技術の開発 2007年〜 農家からの依頼
(育苗効率が悪いのはなぜか?)
・播種時の種子の向きに着目
・「へそ横播き」(種子の“へそ”部分を横に播く)ことで、発芽率が格段に向上
立ち枯れ性病害(黒根腐れ病)の予防 2008年〜 地域の「立ち枯れ性病害対策プロジェクト」に参加
(関連機関との連携研究)
・土着菌「トリコデルマ菌(立ち枯れ性病菌の拮抗菌)」に着目
・土着菌が含まれる堆肥の開発に着手
山の芋 ウイルスフリー化による優良種苗の開発 2005年〜 「産地内ほぼすべての山の芋が、ウイルス病に侵されている」との調査結果より ・ウイルスフリー苗を作成
・さらにムカゴから種芋をつくる
・ウイルスフリーの種芋が完成、畑に戻す研究を継続中
増収に向けた効率的な栽培法の開発 2009年〜 ウイルスによる葉の縮れと生育の関係に着目したことから ・ウイルスフリー苗を校内の網ハウスで栽培、光合成と生育の関係を調べる
・ウイルスフリー苗の葉は、光合成が活発なため、増収が期待


◆参考サイト:
《篠山市役所》
http://www.city.sasayama.hyogo.jp/
《ひょうごの達人招聘事業 - 兵庫県》
http://www.hyogo-c.ed.jp/~somu-bo/yosan/19yosan1.pdf
《(財)日本特産農作物協会》
http://www.jsapa.or.jp/tokusan/tokusantop.html

レポートの感想・ご意見などをこちらよりお寄せください。