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栗田庄一
(くりた・しょういち)

(社)農山漁村文化協会 常務理事
1943年山形県生まれ。
月刊『現代農業』編集長を経て現職。

地産地消の「むらの食堂」

栗田庄一さん (社)農山漁村文化協会 常務理事

 雪の舞う寒い日に、こころ暖まる話を聞いた。山形県北の中山間地域にある真室川町。人口1万人弱、田んぼと山林が中心の小さな町での取り組みのことだ。

雪舞う町にふくらむ夢

 お母さんたちが、4年越しに、地元の食の「あるもの探し」を続けて、町に伝わる四季折々の行事食・伝統食を掘り起こし、町の人たちに向けた「食の文化祭」【写真参照】を催してきた。「ないものねだり」でなく、身近にある宝物、地元の食の豊かさを改めて見直し続けるなかで、ふくらんできた夢がある。

 それは、小学校の廃校舎を「むらの食堂」にすること。
人口1万人弱の町に、一人暮らし、老夫婦暮らしの家が800世帯ある。そんな人たちを元気にしたい。毎日でなくても、週に何回か、みんなで食卓を囲める場、地域の食卓・食堂をつくる。町民に食券を買ってもらう。1食分500円。おまけつき22枚の綴りで1万円。あらかじめ1000人に買ってもらえば1000万円。これを元手に店を構えて、営業を開始する。

話に花咲く「地域の食卓」

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 メニューは、地域の伝統食、四季の行事食中心の日替わり定食を定番に据える。たとえば、冬には「うさぎ汁」。野うさぎの肉を骨ごと金槌でたたきつぶし、だんごに丸めて、豆腐・野菜・山菜などをたっぷり入れた汁物。年寄りにはなつかしい味だ。うさぎ汁を出す日を広報すれば、お客は集まり、話に花が咲くだろう。

 食材は、もちろん地場産にこだわる。野うさぎも山菜もきのこも確保しなくてはならない。乾物・塩漬けなど保存の知恵も発揮して冬場の食材を豊かにすることも必要だ。
郷土食の「納豆汁」も、地場産大豆で本格的なものを提供したいが、器にもこだわり、地元産の漆器「えっぺ(いっぱい)椀」のPRの場にもする。

 この「むらの食堂」には、自分の孫も連れてきてほしい。大事な食育の場、食文化の伝承の場なのだ。

「むらのパン屋さん」も

 「むらの食堂」はまだ構想段階の「地域の食卓」ともいえるものだが、いち早く実現しそうなのが「むらのパン屋さん」。空き店舗を借りての「米パン専門店」の開店だ。

 調べてみると、人口1万人弱、3000世帯のこの町で、パンの消費量は1億円だという。町民1人1万円分、他所からくるパンを買っている。ひと月833円。このうち何割かを地元産の米パンに切替えたい。真室川の米と食材で、どこにもないパンを子どもや孫たちに食べさせたい。そんな思いの人が集まって、「米パン講座」を開き、すでに美味しいパンを焼く腕前は磨いてある。

 米粉の材料の米はもちろん、混ぜる小麦も雪に強い品種で確保する。さまざまなパンを提供したいから、小豆、枝豆、カボチャ、ニンジン、ブルーベリー、りんごなど、ざっと30種類の副材料を地元で賄いたい。50軒ほどの農家に、全量買取りで作ってもらう。米パンは、学校の給食にも提供する。
 畑と田んぼをパンでつなぎ、人を生かし、人を育てるプロジェクトだ。

「食の自給圏」づくりへ

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 むらの「パン屋」も「食堂」も、高齢化がすすむ農家を「地域の食卓」づくりで支える取り組みである。畑や田や山までも含む地域資源を、食卓から見直し、むらの農地や山を守っている高齢者や女性たちを「暮らしをつくる農業」の担い手として地域で支えていく。

 地域ごとの暮らしの視点に立ち、地域の食から農を考え、食と農を結びつけて暮らしを変え、地域を変える。「地産地消」「地域内自給」の積み上げで「地域の個性的な食」が誇りになる暮らしをつくること。女性や高齢者の知恵を結集した、「食の自給圏」、「食でつながるコミュニティ」づくり。
―そんな夢の実現に向けて、雪国の小さな町が動き出している。